このページの情報は 2006年1月21日13時23分 時点のものです。 |
私が宮崎駿監督が嫌いだった理由
スタジオジブリの次回作は、宮崎駿監督の長男吾朗さんによる「ゲド戦記」 のアニメ化であることが、発表されました。 「親の七光り」という言葉もありますが、否が応でも父親と比較されること は必至であり、吾朗さんのプレッシャーも大変なものでしょう。 さらに、選んだ作品が「ゲド戦記」というところが凄い。 「ゲド戦記」は、「指輪物語」「ナルニア国物語」と並んで、三大ファンタ ジーとも呼ばれる傑作ですから、「原作のイメージを崩した」とか言われかね ないわけです。 そんなことは、本人が一番承知しているでしょうから、吾朗さんもなかなか 勇気ある人だなあ、と感じました。 宮崎駿監督は、私のもっと好きな監督の一人であり、「千と千尋の神隠し」 は私にとっての映画史上ベスト3の一つです。 そういえば、先日読者からメールをいただきました。 「私は宮崎作品やディズニー映画は、あまり好きではありません」という、 内容でした。 このメールを読んで、私はふと思い出しました。 実は私は、昔は「宮崎駿監督が大嫌いだった」ということを。 私はアニメファンではありません。 小・中学生、高校生の頃は SFファン。 正確に言えば、海外テレビドラマのファンでした。 「宇宙大作戦」「謎の円盤UFO」「スペース1999」「猿の惑星」(テレビ版) などをテレビにかじりついて見ていた覚えがあります。 本格的な「映画」への興味は、高校生のときに見た「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」の後です。 幻のSF雑誌「スターログ」を購読し、その興味はSFからさらにファンタ ジーに広がり「グイン・サーガー」を読んだり、友人の勧めでコミック版の 「風の谷のナウシカ」を読んで、「素晴らしい!!」と感動しました。 それで、「風の谷のナウシカ」のアニメ版(1984年)を楽しみにしていたわけ ですが、原作の壮大な物語がシンプルにダイジェスト化されていて、正直ガッ カリしました。 シンプルにしたおかげで大人から子供まで誰にでも楽しめるアニメとなり、 大ヒットしたわけですが、「スター・ウォーズ」といい「グイン・サーガ」と いい、私は壮大な話が好きなだけに当時の失望は大きかったわけです。 この辺の心理を自己分析してみましょう。 好きな人に裏切られると、猛烈に嫌いになるというのがあります。 大好きな人ほど、裏切られた後の反動というものが大きく出る。 そんな心理からか、宮崎監督が大嫌いになったのかもしれません。 その後の、「となりのトトロ」(1988年)の公開。 大学生の頃、「ムービー・ファン」という札幌でも何十年も続く映画サーク ルに所属していましたが、その同人誌に「となりのトトロ」を猛烈に批判する 原稿を書いたのを思い出します。 今考えると、「となりのトトロ」は非常に良い映画だと思いますが、 なぜそこまで「嫌い」に思えたのでしょう? 大学生の頃は宮崎作品が大嫌いだった私が、「千と千尋」(2001年)を最高に 思えたのはなぜでしょう? それは、宮崎作品は常に「父親の視点」で描かれているいるからだと考えら れます。 父親が子供を見つめる視点。 あるいは、父親が子供(たち)に伝えたいメッセージという側面が宮崎作品 には存在するでしょう。 「父親から子供へのメッセージ」、これは思春期の子供(特に男の子)にとっ ては、大変迷惑なものです。 「スター・ウォーズ心理学」 に詳しく書きましたが、男の子は父親と戦い、打ち負かしていく過程で成長し ていくものです。 押し付けがましい「父親から子供へのメッセージ」というものは、男子にと っては反感そのものになります。 そのメッセージが強ければ強いほど、反感は強まります。 まさに男の子にとって、父親は反抗の対象なわけです。 大学生とはいってもまだまだ青臭かった私のことですから、そうした 「父性的なメッセージ」に対する反抗という深層心理が働き、 「となりのトトロ」をけなしてしまったのではないかと、自己分析する わけです。 40歳となった今の私は、まだ子供はいませんが、明らかにこれは「父親」の 年齢です。「父親から子供へのメッセージ」を受け取る側の人間ではなく、 送る側の立場になってしまったわけです。 そういう自己の成長というものもあり、宮崎監督の「父性」的なスタンス。 「父親的メッセージ」に対して、非常に共感できるようになった、ということ でしょう。 宮崎駿監督のファンというのは、小さなお子さんと女性が多いと思います。 若い男性のアニメファンは、別な系統のアニメを好むと思います。 「父親的メッセージ」には、男子は無意識に「反抗」してしまうわけですが、 女子は自然に受け取れるわけです。心地よいメッセージとして受け入れるので はないか、と思うわけです。 日高のり子
アーシュラ・K・ル=グウィン
ゲド戦記全6冊セット
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