宮崎駿 映像と思想の錬金術師
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定価 : ¥ 1,575
販売元 : 社会批評社
発売日 : 2004-11 |
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改訂版だが |
別の出版社から出た旧版は、当時「もののけ姫」までしか作られていなかった。この新版は「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」まで言及している。それにレイチェルカーソンの話は、旧版にはなかった。
読むならまずこちらだろう。旧版で削除されたコアな話を読むのは、その後だ。
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アニメ論をもっと |
アニメが現代の少年たちに大きな影響を与えている割には、アニメ論やアニメ批評は少ないように思う。その意味では、著者の井上静氏のこの本は、貴重なアニメ論であり、批評だ。
最新の宮崎氏のアニメは、観る機会はなかったが、こういう批評がもっと続出することが望ましいように思う。
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たぶん宮崎駿自身がいちばん喜んでいる |
「ナウシカ」にレイチェル・カーソンの「沈黙の春」が影響していること、そうしたエコロジーやフェミニズムの思想的背景の指摘。
だから「右」から攻撃があったこと、それへのしなやかな反論。
監督自身がきっと納得しているはず。
これに比べると、ナウシカの胸が大きいとかいう某著者の本がバカらしく感じた。
あと「エクソシスト2」の影響というのには意外だが確かに。
ナウシカが虫に対してするのと、エクソシストの少女リーガンが綱を振り回してイナゴの大群を鎮めるのは同じ。
左翼思想を拠り所にする宮崎駿が、冷戦で資本主義が勝利したとき、左翼の原点に返ろうと「パリコミューン」に向かい「紅の豚」で赤い豚がさくらんぽが実る頃に聞き惚れている姿を描き、後輩の庵野秀明が注目を集めたとき、「エヴァ」の神秘主義に対抗するようにして「もののけ姫」で宗教観と文明論を集大成してきたこと、バブル破綻をうけて、親の無責任で苦労する子供にわびを入れるかのようにして「千と千尋の神隠し」を作った。
作品の時代的背景と、作者の思想的背景とともに、美術や音楽の観点からも検証したり、黒沢映像の影響まで的確に分析して論考している緻密さのわりには簡潔でユーモアもある肩肘張らない文体で、一気阿世に読ませる巧みな筆致だった。