宮崎駿の原点―母と子の物語
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定価 : ¥ 1,260
販売元 : 潮出版社
発売日 : 2002-10 |
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周辺取材が不足している |
『説得』『消えたマンガ家』の著者である大泉実成氏の待望の新刊であり、題材も宮崎駿の評伝という興味深いテーマなのだが、読んで物足らない感じが強く残った。
宮崎駿の人生と作品を母子関係から読み解くというのは、興味深いアプローチなのだが、いかんせん周辺取材が足らない。
宮崎駿のさまざまな著書やインタビューが資料としてちりばめられており、新規取材はほとんど駿の兄・新氏のインタビュー・FAXのみに限られている。評伝では、いかに多くの資料と証言から重層的に対象を描いていくかが腕の見せ所になると思うのだが、さらりと流しすぎた感じを受けた。
宮崎が生まれ育った(第一の)家庭についての証言は兄・新氏から得られており、興味深い知見も多い。しかし、宮崎が結婚して作った(第二の)家庭について、宮崎の妻や子から直接証言を得られなかったのは残念だ。
著者の大泉氏の当初の目的は「できるだけ簡素な宮崎駿伝」ということだが、取材不足は著者も自覚しているようで、「今後、さらに多くの証言者の話を聞き、万が一増刷などという事態になったら、原稿に手を入れたいと思う」とエピローグに書かれている。
この書籍は、単行本としては不十分な内容のように思う。著者にダメだしをして、出版を延期しても追加取材を要求するのが、編集者の仕事だと思うのだが。