ユング自伝―思い出・夢・思想 (2)
|
人気ランキング : 163,169位
定価 : ¥ 2,940
販売元 : みすず書房
発売日 : 1973-05 |
|
圧倒的なエネルギーの放出 |
自らの研究、思想を振り返って述べており、ユングが自分自身の思想、心理学をどう捉えていたかが分かる貴重な本である。
強烈なビジョン、死後の世界と現世についてまで縦横無尽に語られている。
個人出版された「死者への七つの語らい」も付いている。
どう読み解くべきかと考えると、率直なところ困惑してしまう。読んで感じるものなのかもしれない。
|
ユングの秘められたる内的世界 |
この本を、読んだのは発刊から間もない頃のことだった。ジョーンズの「フロイトの生涯」を読んだ後に、ユングの伝記があればと思っていたが、当時は著作集は有ってもめぼしい伝記は無かった。しかも、ユング著作集は、一種の特異な世界からの手紙のように取っ付き難く、フロイトの「文化の不安」や「モーセと一神教」のような、問題意識に溢れてはいるが、或る意味での明快さを持ってはいなかった。其処に出て来たのが、この自伝であり、なけなしのお金を叩いて買い求めた。故に、心理学の入門書としては読んではいない。
読んで見て、先ずそのビジョンに驚かされた。幼少の頃からの思い出を書きながら、彼は、父や母の内面、本人達も気付かぬ、意識下の幾つかの性格を見抜いている様な少年であった様だ。自伝に書き込まれた、一種の予知感覚には、驚きを隠せない。どうも母方から霊媒の素質を受け継いでいるらしい。小学校の頃ユングは、ひどい劣等生であり(こういう事は、良くある事で、極めて個性的な才能を持つ場合、厳格で画一的な教育には、適応不全を起こす者が多い、ダーウィン・アインシュタイン・ウイトゲンシュタイン・エジソン・ボーア、軽重は有るが、数えればきりが無い)両親が、カールの学業を心配する話を盗み聞き、本人は深い衝撃を受ける。その様な少年期から青年期にかけてユングは、段々に精神的にも知能的にもたくましく育ってゆく。
ユングの内面では、この辺の事情も、意識下で大きな影響力を持っているのではなかろうか?
自伝を読んで行くとそのビジョン、夢、幻影は恐ろしいくらいの原始的心性を帯びているようにも思える。強力な合理的知性と霊媒の能力が一体となり得れば、このビジョンの解明が可能なのか?
仏教の説く死生観にもユングは関心があったようだ。
とにかく、この世界の隠れたビジョンに関心の有る方は読んで見ることです。
|
ファンタスチックな自伝 |
「文学的感動を与える伝記」として吉本隆明がトロツキーのそれとともに上げていた。確かにめっぽう面白いが、真に受けると危険。殆ど死後の世界にとんだり守護神に会ったりしてRPGの世界。ユングの他の本はすべて落ちが同じなのでこの書に勝る面白いものは見つからない。
ユングは何を問題にしたのか?「悪はどこから来たのか」である。神は何故悪を作ったのか。悪はどこから来たのかを巡るグノーシス派の問いは、今も生きているとユングはいう。
勿論ユングは神を無意識と言い換えただけである。だがそこに悪への問いが含まれるから、ユングの無意識を巡る問いは善悪の戦いとなるのである。
|
ユングの告白 |
上巻からの続巻になるわけだが、この作品はユング個人の領域、単なる心理学者としての領域を越えた部分にも、あえて触れられている点で、他の著作とは区別される。
上巻は子供時代のエピソードが多いが、下巻は自分の転生観などについても触れられ、公開は差し控えてきた、グノーシス派に関係の深い「死者への七つの語らい」も収録されている。
これは彼がまだ若い時代、自らの限界を著した作品でもあり、ユングの弟子の患者でもあったヘルマン・ヘッセの著作にも影響を与えたと言われている。
また、ユングは一応クリスチャンであるが、「石」に対して信仰告白するなど、少なくとも、その信仰の形態は多くの宗教者とは一線を画している。
彼はクリスチャンであるが、転正論者であった。
そして死後、人は進化・進歩ができないのではないかという、彼独自の考え方を持っていた。
人は死後、生前やり残した仕事がある場合、また同様の課題に取り組む為、産まれ変わって来るが、場合によってはその必要が無く、二度と産まれ変らないこともあるのではないかという、彼独自の考えなど、彼の個人的な信仰・信念の領域に触れるなど、彼の感情・人格においても、他の著作よりも身近に感じることができる。
「結合の神秘」「ヨブへの答え」もユング最晩年の著作であるが、この自伝は一種の遺書のような趣がある意味で、特殊である。