影との戦い―ゲド戦記 1
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人気ランキング : 27,400位位
定価 : ¥ 1,680
販売元 : 岩波書店
発売日 : 2000 |
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不安との闘い方 |
ファンタジーとしての面白さはもちろん、「名付ける」ことの意味、逃げるより立ち向かうことで強くなっていく成長の過程など大切な教えがたくさんちりばめられている。
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まず最初に読むと良いファンタジー |
「ハリーポッター」や「ロードオブザリング」のヒット以来、ファンタジーを読んで見ようかという人が増えてますよね。
本屋さんの店頭でもファンタジーのジャンル新しいシリーズが多く見受けられます。
ぼくもファンタジーは子どもの頃から好きだったので、いろいろ読んでいますが、このゲド戦記のシリーズを超える作品にはまだめぐり合っていません。
特にこの一巻「影との戦い」では、主人公ゲドの幼少の頃から青年の頃までを描いています。
誰もが心の中に持つ闇やそれを包み込む優しさの豊かな表現は、読むたびに心に響くものがあります。
ファンタジーとはどんなものかよく分からず、何か読んでみたいなと思う人は、まずこの本から始めてはどうでしょうか?
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ファンタシーの傑作 |
まずこの本を読んで感じるのは、著者の想像力の豊かさです。現実にない世界、つまり著者の頭の中にしか存在しない世界をここまで具体的に描写するのは、私たちが考えるよりさらに難しいことだと思います。その鮮やかな描写と主人公の冒険に、大人も子供も引き込まれます。C.S.ルイスのナルニア物語はまだまだおとぎ話という感じですが、ここまで来るとおとぎ話というより立派な冒険物語です。
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ファンタジ小説のひとつの到達点、敷居は低いが奥は深い |
書店や図書館では児童文学として扱われているが、大人の鑑賞にも十二分に耐える傑作。児童文学の世界でもファンタジ分野での名作(ナルニヤ国物語、ハリーポッター・・)は少なくないが、本作ははっきり言ってそれらとも一線を画する内容である。なりは児童文学ということで敷居は低いが本作が持つ思索的な奥深さはファンタジ小説のひとつの到達点と言ってもよいのではないかと思う。
多島海(アースシー)という架空世界を舞台に、魔術師ゲドを描いたシリーズ。ただし各巻のストーリーの関連は薄いためバラバラに読んでもいいだろう。当初三巻までの三部作として発表され長らくそのままであったが、16年ぶりに第四部以降が発表され話題になった。
第一部はゲドの幼少期から青年期の物語。
鍛冶屋の子として生まれたゲドは村のまじない師に見出され魔法の手ほどきを受け、後、島の魔道師に弟子入りする。
やがて魔法の学院があるローク島に送られ、優秀な成績に頭角をあらわしてく。だが、ささいなことではじまった学友との魔法による果し合いの中で、ゲドは黄泉の国から死者を呼び出すという禁断の魔法を使い、この世に「影」を呼び込んでしまう・・・。
瀕死の重傷を負い半年ふりで復帰したゲドにはかつての冴えも覇気も失せてしまったかのように見えた・・・。
魔法で守られた島に残れば、「影」から安全でいられる。だが、島の外に出たら、ゲドを乗っ取ろうとする「影」が現れるだろう・・・。だがゲドは島を出ることを決心する・・・。
作品全体はイギリス・アイルランドの気候を思わせる多島海世界の雰囲気や、「影」に追われる宿命を負ったゲドの孤独の旅路のため陰鬱な雰囲気に覆われている。
若さ故の驕り、過ちに、ゲドが追う宿命・・隠喩・含蓄に富んだストーリーがすばらしい・・・。
また本作で特筆すべきは、魔法の扱い。魔法に対する説明や設定に説得力があり、本シリーズの魅力のひとつとなっている。
余談だが、栗本薫の書く「グィンサーガ」の主人公、グィンの名前は、本書の著者ル・グィンからとられたことは有名。
余談その2、ゲドが飼うオタクと呼ばれる小動物のペットの描写が、ナウシカに登場するテトの元ネタのようであり、可愛らしい。
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読み出したら止まらない |
ゲド戦記は、6巻構成ですが、各巻ごとに著者の提示するテーマが大きく変遷していきます。4巻以降は、読者側にもやや大人の成熟が必要なストーリーであり、子供には敷居が高い部分があり、好みが分かれる可能性があると思います。
しかし、1巻、2巻は、文句なく子供にも大人にもお勧めです。
なによりファンタジー小説の歴史に残る冒険物語の金字塔です。
1巻ではゲドという少年、2巻ではテナーという少女の、成長と苦難、内面の克服を描きますが、ファンタジー小説とは思えないほど主人公の心理描写に焦点をあて、ほりこみが深く、展開もスリリング、舞台の魔法世界も神秘的です。
読者は読むほどに主人公に同化していき、手に汗握ります。そしてまたゲドは実に格好いいのです。1巻は男の子、2巻は女の子が主人公に同化できるので、読めば間違いなくのめりこむでしょう。
1巻ではアースシー(多島海)の世界中をほぼくまなくゲドが船で駆けめぐり、その展開のダイナミックさは2巻以降も及びません。さらに1巻だけでは解決しない多くの伏線、アースシーの魔法世界について読むほどに深まる謎、ゲドが追われる「影」の謎、追われる恐怖。読むほどにわくわくどきどきとして、読み出したら止まらなくなります。
極上の成長物語ですので、大人が読んでも、ゲドに自らの若き日の、奢り、挫折、苦難、不安、迷い、悩みと、それを克服する勇気と行動の記憶を重ね合わせることでしょう。