アースシーの風 ― ゲド戦記V
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人気ランキング : 37,178位位
定価 : ¥ 1,890
販売元 : 岩波書店
発売日 : 2003-03-21 |
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新たなるアースシーの世界へ |
不慣れな英語版で読みました。1〜3巻で残ったもやもや、そしてさらに追い打ちをかけた4巻。それらがかなり解消されて、胸のつかえがとれたようです。「死と転生」「滅びと再生」「生と性」「世界の循環」「言葉と思い」・・・本来、このシリーズはこの5巻目で完結するのだと、しみじみと思って本を閉じました。ぜひ、児童期に1巻から順番に5巻まで通して読んで欲しい本です。シリーズものなので先の4巻までを先に読まねばならない(単独では世界観がつかみきれない)ハンデを考慮して、星を一つ減らしましたが、全5巻としては星は5つです。邦訳が楽しみです。
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「アースシーの風」 |
これってアースシーの世界=魔法使いたちの世界=男性が力を持つ世界の否定なのでは? ル・グウィンは、魔法使いよりその地位や力は下と貶めたまじない女たちに、フェミニズムという呪縛をかけられてしまったのではないかしら? それと、永遠に続く孤独な自己という死の世界から、ひとりひとり、石垣を越えていくところ。プルマンの「アンバーグラス」で、天国から子供たちが放たれていくところと、描写がそっくり。キリスト教の世界観では、生きていくこと、そして死んでいくことを、もう物語として構築して、人々を納得させるだけの力がなくなってきているのかな。でも、この第5巻にだって、全然納得させられないんですけれども。んー、絶対、これ、ゲド戦記と別物と思います。
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いろいろ雑感 |
私、最初の3巻は日本語訳で読んで、第4巻以降は出版と同時にリアルタイムで英語で読んでいます。で、英語だと4巻と5巻の間に“Tales form Earthsea”があるんですが、あの本はまだ翻訳されていないのでしょうか? あの本の,特に最後の章を読んでおかないと,恐らくこの本は6−7割くらいしかわからない気がするんですが…(岩波しっかりしてくれ)。
もう一つは感想ですが: SF作家としてのル=グウィンの特徴というかキーワードは、「文化人類学(的)」と「フェミニズム」だと思います。そのことは、SF作家としての代表作である「闇の左手」を読んだことがある人には、わかってもらえると思います。しかしゲド戦記の最初の3巻、特に第1巻と第3巻は、前者の特徴は色濃く出ていますが、後者はあまり感じられない,非常に男性優位の世界です。個人的には前から,ル=グウィンという作家の全体像から見ると、最初の3巻のほうが,かなり特殊な世界だと感じていました。で,結局,彼女は歳をとってから,Tehanu(帰還),Tales from Earthsea,The Other Wind(アースシーの風)を書くことで,「主人公=魔法使い=男性」という世界を自分の手で解体することになってしまった。それを成熟ととるか,ファンの期待を裏切ったととるかは人それぞれでしょうが,一人の作家としての一貫性・完結性ということを考えると,いわば最初の3巻の世界を包みこむような形で,この本を含む後半の3巻が書かれたのは避けられないことであったと思います。
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死と生 |
第1巻からすでに「ゲド戦記」は死と生とを扱ってきたが,最終巻にいたってついに話は,動物が人間になって,死という概念を得て,人間自らがその概念に縛られて本来の「生」を十全に生きられなくなっている状況に対しての著者なりの回答の提示になっていると思います。
話は晦渋で正直言って2回読んでもよく判りませんでしたが。
しかしこの,死後の世界の風景を,人間と竜とがいかに変えていくのか?そもそも竜とは何者なのか?という物語は我々の心を掴んで放さないですね。また読んでみたい本です。
ちなみに私は読むたび考えるたびにこの「黄泉の国」に日本の「イザナギイザナミ」神話を投影してしまいますね。著者は知っているかなー?
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是非に・・・ とは思わない。 |
その美しい文体(訳者に感謝)と、豊かな思想性で不朽の名作といわれるゲド戦記シリーズの第5巻にして最終巻。
第4巻では失われていたように感じた美しい文体と、深い味わいが復活している。しかし、女性の視点に強い感情移入を感じてしまい、はじめの3巻のような読み手の自由さが少し奪われているような気がした。やはり、はじめの3巻までのような読後感のよさはなかった。3巻までとは違い、是非とも読んで欲しい作品とは思わない。